集中力が必要な矢師の息抜き「こだわりのお庭で家族と楽しむレジャーめし」

仕事やモノづくりへのこだわりと同じく、食にも独自のこだわりを持つ職人をフィーチャーする「職人めし」。第7回目の今回は、愛知県岡崎市で弓具店を営む、7代目・小山泰平さんを訪ねました。

小山矢さんのある岡崎市に流れる「矢作川」は、「矢に羽根を付けることを『矧(は)ぐ』と言ったことから『矢矧(やはぎ)』と転じた」と言われるほど、和弓に縁のある土地です。最近工房の隣に新設したという店舗兼試射場の戸を開けると、ずらっと並ぶ色とりどりの矢とともに、小山さんが出迎えてくださいました。「職人さん」というと気構えてしまいがちなのですが、とても気さくそうな方で少し緊張がほぐれました。

まさか自分が継ぐとは思ってなかった

明治3年創業という歴史ある弓具店の7代目にあたる小山さん、7代目ともなると、やはり、子どもの頃から跡継ぎとして意識するものはあったのでしょうか。

小山さん 実はまったく継ぐとは思っていませんでした。というのも私の父は7人兄弟の6番目で、僕の父や僕は嫡男ではなかったんです。7代目になるはずだった嫡男が就職先でサラリーマンとしてやっていきたいということで、僕が脱サラして小山矢を継ぐことに決めました。

そうして25歳、サラリーマン3年目で家業を継ぐ決意をした小山泰平さんは、ノリと勢いという部分もあったものの「会社を潰したくない」という想いで慣れない矢師の道にすすむことになったそうです。まずは東京の弓具店に修行へ、そこで本格的にご自身でも弓道を始めながら、矢師としての道を歩みはじめます。しかし、修行をしたといっても、やはり、いざ継ぐとなると様々なご苦労があったそうです。

小山さん はい、当時羽の接着に使用していた水溶性ボンドは、雨の日に手入れを怠ると羽が取れてしまいます。そのため卸先からお叱りを受けることもありましたし、少しずつ売り上げが低下していました。高価な羽は繰り返し使うので、きれいに取り外せるという点では水溶性ボンドにも良さがあるのですが、お客様の要望を聞いてゴム系のボンドに切り替えました。

そうしてお客様の声を元に改善を加えることで、ここ10年は売り上げが伸びているそう。小山さんのお客様と真摯に向き合う姿勢が、こうした結果に結びついているのではないかと、お話を伺う小山さんのお人柄から感じさせられます。ほかにも、水溶性ボンドの前に接着剤として使用されていた「にかわ」で羽をつけてほしいという要望があった際には、大変苦労されたそうです。

小山さん にかわは昔から使われていた接着剤ですが、扱いが難しいので今はあまり使うことがありません。私は実際に取り扱ったことがなかったので、父に頭を下げて教えてもらいました。うちには古いにかわしかなく、探し回ってやっと手に入れたんですよ。

接着剤や羽の種類は矢飛びにはあまり影響がないそうです。しかし、道具にこだわる方は、希少な羽を選ぶこともあるそうで、以前は希少な羽を使った矢は1セットで中古車が買えるくらい高価だったのだとか。細部までこだわり、羽を大事に再利用するという文化は日本らしいですね。そして、そんなお客様のこだわりや想いに応えようとする小山さんがとても印象的でした。

羽ひとつとっても奥深い「矢師」の仕事、矢がどのように作られていくのかもお教えいただきました。

小山さん 竹製の矢の場合、まずは切り出した竹を長さ1メートル10cmに切り揃え、節、太さ、重さを揃えて束にして乾燥させておきます。十分に乾燥させたら釜の火にあてて竹を柔らかくし、矯め木(ためぎ)でしごくことで曲がりをなくします。次に小刀で慎重に削り、もう一度火入れをします。今度は石で摩り下ろすことで滑らかにし、また火に通して焼きムラをなくします。

写真を見ていただくとわかる通り、一番右から左にかけて徐々に真っすぐ、色が濃くなっていきます。こうやってアルミやカーボンに劣らない強度へと加工されていくんですね。このあとさらにヤスリがけや重心をそろえる「釣り合わせ」を行い、羽をつけていきます。

羽をつける際、重要になるのが羽軸の処理です。お正月によく見かける破魔矢は、射ることを考えていないので割いた羽がそのまま接着剤でつけられています。一方で、実際に使う矢は飛び方に影響するため、羽の軸をコテで焼いてカーブをつけてから接着するんです。そうすることで竹やアルミ、カーボンの芯と接着したときに馴染みます。

そのあと接着した羽の端をきつく糸で締め、その糸を塗料でコーティングします。もう一度火にかけて矯めしをするとやっと完成です。

細い矢の一本一本にこれほどの労力がかかっているとは思いませんでした。

「これからの目標や、やっていきたいことはありますか?」とお聞きすると、「まずは会社を潰さないこと」と力強く答えてくださった小山さん。その言葉には、何代も受け継いできた伝統と、働いてくれている従業員の方々を守るという、大きなものを背負っている方だからこその重みが。試射場や小売販売も、会社を安定化させるための施策のひとつだとか。飄々とお話される小山さんですが、その内では責任感がエネルギーになっているのだと強く感じさせられました。

休日のお庭はレジャースポットに! みんなで楽しむバーベキュー

普段は食にこだわりがないものの、友人や家族とバーベキューをするのが休日の楽しみだという小山さん。お庭のバーベキューコンロはかなり本格的で、こだわっていらっしゃるのが、ひと目でわかります。娘さんの大好きな鶏肉は必ず準備しておくそうですが、小山さんは「やっぱり食べたいので牛肉も買います」と笑顔でおっしゃっていました。小山家のバーベキューは、来てくれたみんなが楽しめる心遣いのもてなし料理、なのかもしれません。

他にもお庭で大勢で楽しむ食事にはこだわりがあるそうで、夏には流しそうめんも行うんだとか。小さなお子さんはとても喜びそうですね。職人さんというと自身の技のために孤独と向き合うイメージがありましたが、みんなとの時間を大切にする小山さんのお話を伺うことで、「職人さん」を身近な存在に感じることができました。

「職人めし」レシピ

矢師のお楽しみ!大切な人と楽しむバーベキュー

材料

材料名分量備考
とうもろこし(皮付き)適量
ピーマン適量
鶏肉適量
牛肉適量
お好みでピザや団子適量
その他お好みの食材適量

レシピ

手順調理内容
1【下ごしらえ】
串焼き用の竹串は、30分ほど水に浸しておく(A)
皮なしのとうもろこしを使用する場合は、下ゆでしておく
ピーマンは洗って、数カ所穴を開けておく
鶏肉は余分な脂肪を取り除き、お好みの大きさに切る
牛肉は筋を切り、お好みの大きさに切る
2Aの竹串に、お好みで食材を刺していく
3炭に火を付けて、みんなで食材を焼いて食べる

今回の職人

職人データファイル:007

小山泰平さん

小山矢

愛知県岡崎市/矢師

明治3年創業の弓具店「小山矢」7代目、伝統を守るために挑戦を続ける矢師。

http://www.koyamaya.com/

次回予告

日本の伝統文化に携わる職人に、その仕事に対する想いとこだわりのレシピをインタビューするメディア「職人めし」。次回の職人はお客様に真っ直ぐ向き合う石工職人、楠名康弘さん。

ぜひ次回の記事もお楽しみに!