「蔵付き酵母」が育んだ美酒には、名古屋定番の肴が良く合う

仕事やモノづくりへのこだわりと同じく、食にも独自のこだわりを持つ職人をフィーチャーする「職人めし」。

第22回目の今回は、愛知県愛西市で200年以上受け継がれてきた老舗の酒蔵・青木酒造の15代目・青木拓磨さんに、他に類を見ない「全量酵母無添加」への挑戦と、米の旨味がしっかりと感じられる日本酒にぴったりな職人オススメの一品についてお話をお伺いしました。

「自分の代でつぶしたくなかった」思いではじめた酒造りへの道

「大学も経済経営系でしたし、最初は家業に戻るつもりはなかったんです」と話すのは、200年以上の歴史を持つ老舗酒蔵・青木酒造の青木拓磨さん。そんな青木さんが家業を継ごうと思ったのは、一つのきっかけがあったそうです。

青木さん 子どもの頃から特に後を継げとも言われてはいませんでした。しかし、前職は5年ほど勤めていましたが、あるときにある程度将来も見えてきて、これからのステップをどうしようかなと考えた時に「家業」があったんですよね。とはいえ、「継ぎたい」というよりも「つぶしたくない」という気持ちの方が強かったです。青木酒造には200年の歴史がありますので、やっぱり自分の代で終わらせたくはないなと。

家業に戻った際には酒造りの知識も経験も無かった青木さん。そこで最初にはじめたのが「とにかく走り回ること」でした。

青木さん 1年目は体力に任せて走り回りました。伝手を辿っていくつかの酒蔵で仕込み作業を一緒にやらせてもらい、その後は広島の醸造試験場で研修を受けました。その時の経験や学んだことに加え、青木酒造で実地経験したこと、さらに本を読んで座学で学んだことをベースとして酒造りを行っています。2年目からは「とりあえずやってみる」という形で一つずつ経験値を積んでいきました。

酒造りのシーズンになると朝早くから夜遅くまで仕込みの作業が続くため、大変だと思うこともあるそうです。それでも、酒造りの世界に入ってみて「造る楽しさに目覚めた」と青木さんは話します。

そんな青木さんは蔵元が杜氏を兼ねる「蔵元杜氏」という立場で酒造りを担っています。現在少しずつ増えてきているという「蔵元杜氏」というスタイルには、メリットがあるそうです。

青木さん もともと杜氏というのは季節労働者という形でしたが、現在は季節労働者というスタイルそのものが廃れてきていますので杜氏も年間雇用が主流になっています。今でも蔵元が杜氏を雇用して酒造りを行っているところは多いのですが、時として蔵元と杜氏の造りたいお酒が違ってきてしまうこともあります。蔵元は会社ですので「こういうお酒を売りたい」という方針を持っていますが、杜氏は職人ですので「自分の酒を造りたい」と言う思いがどこかにあるんですよね。その点、蔵元自らが酒造の責任者である杜氏を兼ねることで「自分の造りたい酒を思い通りに造って売る」ということができますし、経営から見てもやりやすいと感じます。

「自分が造りたいお酒を造って売ることになるので、必然的にお客様への話し方も変わってくる」という青木さん。3年前から父・春彦さんの後を受け継ぎ、若き蔵元杜氏として青木酒造の酒造りを担っています。

主力ブランド「米宗」は難しいお酒!? 「全量酵母無添加」にこだわる理由

青木酒造の主力ブランドは「米宗」。卸問屋をほとんど通さずに酒販店へ直接販売するスタイルをメインとしています。それには造ったお酒に対する青木さんの真摯な考え方がありました。

青木さん 米宗は「説明をしないと難しいお酒」なんです。お米の旨味がしっかりと感じられる日本酒なのですが、酒質的には今もてはやされているような主流のものではないんですよね。そのため、扱ってくれる酒販店や買い求めて頂くお客様にはこういうお酒ですよという情報をしっかりと伝えていく必要がある。なので、できるだけ消費者様に近い状態での酒類販売を心掛け、直取引中心に行っています。

「お米で造っているのだからお米の味をしっかり出したい」と話す青木さん。そのため「お燗をして飲んで美味しいお酒」であることを大切にされています。ほかほかのご飯が美味しいように、お米本来が持つ美味しさを最大限に引き出すには温度が不可欠。「米宗」もぜひ温かくして飲んで欲しいとのことでした。

青木さんの酒造りの根底にあるのが「お酒は人間が作るのではなく、菌(酵母)が造り出す」というもの。少し目を離すだけであっと言う間に変化してしまう菌ですが、菌を信じていかに菌に酒造りを任せられるかが大事だと話します。

青木さん 本来の醸造、酒造りというのは「人の手」ではなく「菌の手」で行われるものだと感じます。醸造の世界は人偏が付く「作」ではなく人偏が付かない「造」が使われるのも、酒は「人が作る」ものではなく「菌が造り出す」ものであると昔の人が考えたのではないかなと。自分としても「菌を操る」のではなく「酵母の仕事に手を差し伸べる、支える」という感覚で、おおらかに造っていきたいと思っています。

そんな青木さんの酒造りがチャレンジする酒造りが「全量酵母無添加」。日本全国を見渡しても数が少なく、大変難しい挑戦ですが、これが出来るのは先祖が残してくれた蔵に住みついた、良い酵母のおかげだと言います。

青木さん 菌に任せるためには、ちゃんとした菌が入っているという前提が必要になります。それには酒母づくりという工程が重要になってきて、うちの場合だとその工程で蔵付き酵母が入ってきます。日本酒造りでは酵母菌や乳酸菌など様々な菌との関わりが不可欠です。先代、先々代と安全に酒造りをやってきてくれた歴史があるからこそ、安全な「全量酵母無添加」醸造が可能となり、本当の意味での青木酒造の味を確立できたと思っています。

一度酒造りが始まれば蔵優先、菌優先の日々が長期にわたって続きます。そうなると自分のリズムで眠たいときに寝る、おなかが空いたときにご飯を食べるといったことが出来なくなる、お話で聞くだけでも大変な仕事です。それでも青木さんは「お酒が出来たときよりもお酒を造っている過程が楽しい」と話します。特に、蔵付き酵母が入ってきて、そこから生命力の強い菌だけを選抜していく過程が一番気持ちいいとのこと。目に見えない菌が、青木さんの酒造りの大切なパートナーです。

多様な蔵付き酵母を生み出す深い味わいの『米宗』に合うのは、濃い味がたまらない「手羽先から揚げ」

蔵付き酵母の力を発揮した「酵母無添加」での日本酒造りを行っているのは青木酒造が愛知県では唯一、全国でもごく稀とのこと。特に「全量酵母無添加」での日本酒造りは全国でもほとんど類を見ないそうです。「蔵付き酵母」を生かすことで、多様で深みのある味わいが生み出されます。

青木さん 「酵母無添加」の酒造りでは、蔵付き酵母が原料に入っていくまでに時間がかかります。そうするとその間に様々な菌が様々なことをして、様々な味をつくる、それが深い味わいに繋がっていきます。また、お酒は菌が造るものですので再現性は求めていません。なぜなら今年の菌と来年の菌は必ず変化をしているから。その場所で、その時でないとその味は出ないと思っています。

「『米宗』を通じて感動を与えたい」と話す青木さん。数ある『米宗』ブランドの日本酒の中でも、特におすすめの一本は「純米大吟醸」とのこと。他の純米大吟醸にはないしっかりとした旨味と複雑な風味が感じられる深い味わいのお酒です。

外食する際には、味噌おでん屋さんで「土手の味噌つゆにつけた串カツ」を食べるのが大好きだという青木さん。そんな青木さんが考える『米宗』に合うオススメのおつまみは「手羽先唐揚げ」でした。

濃い口に仕立て垂れた自家製のタレをたっぷりとまぶした手羽先は、お酒が欲しくなる美味しさ。そのしっかりとした味わいには、しっかりと米の旨味を感じられる『米宗』のお燗酒が正にピッタリでした。

地ビールや地ウィスキーよりも早く「クラフト化」が進んでいた日本酒の世界。その中でも愛知県のお酒は多種多様で幅が広いと青木さんは教えてくれました。「全量酵母無添加」にこだわって造られた日本酒『米宗』とともに、日本酒の楽しさ、面白さをもっともっと知りたくなるインタビューとなりました。

「職人めし」レシピ

手羽先唐揚げ

材料

材料分量備考
手羽先7本大きめサイズがおすすめ
塩・こしょう適量
片栗粉適量うすくまぶす程度に
(タレ)
醤油大さじ1
めんつゆ大さじ1
大さじ1.5
みりん大さじ1.5
砂糖大さじ0.5
ごま大さじ1

作り方

手順調理内容
1タレの材料を混ぜ合わせる
2手羽先に切り込みを入れ、塩・こしょうで軽く味付けをする
3手羽先に薄く片栗粉をまぶす
4手羽先を油で10分揚げる
5揚げた手羽先を、タレとともに軽く炒める

今回の職人

職人データファイル:022

青木 拓磨さん

青木酒造

愛知県愛西市/蔵元杜氏

大学卒業後、某高級スーパーで5年弱勤務したのち、家業である青木酒造に入る。その後各地の酒蔵や醸造試験場での修行を経て、青木酒造での酒造りをスタート。

現在は先代である父・青木春彦(現社長)からバトンを受け取り、醸造責任者として酒造りを担っている。

https://yamahai.co.jp/company/

次回予告

日本の伝統文化に携わる職人に、その仕事に対する想いとこだわりのレシピをインタビューするメディア「職人めし」。次回の「職人」は岐阜和傘を華やかに彩る職人、「河合幹子」さん。

ぜひ次回の記事もお楽しみに!