生麩の魅力を伝え続ける情熱の職人と学生とのコラボレシピ

仕事やモノづくりへのこだわりと同じく、食にも独自のこだわりを持つ職人をフィーチャーする「職人めし」。第6回目の今回は、愛知県岡崎市で「麩屋万商店」を営む、4代目・峯田和幸さんに、お話を伺いました。

「生麩の魅力をもっと伝えたい」という熱い職人さんがいらっしゃると聞きつけ、訪れたのは岡崎市日名本町の閑静な住宅街。この2020年で創業110年を迎える麩屋万商店さんは、今では市内で唯一となった生麩屋さんです。工場の戸を開けると、優しそうな笑顔で迎えてくださった峯田さんが、今回の「職人」さんです。

生麩っていったいどんなもの?

何気なく食べている生麩ですが、よく考えてみたら一体何なのか分からないという方もいるんじゃないでしょうか。そんな素朴な疑問から、投げかけてみることにしました。

峯田さん そうですよね。しかしあまり知られていないのですが、生麩はもともと精進料理として室町時代に発達したんです。お肉の食べられないお坊さんがタンパク質を取るために重宝されたんですよ。

もちもちとした食感の生麩はグルテンが主な材料のため、タンパク質の多さと脂質の少なさが特徴なのだとか。適度にカロリーを取りつつ脂質を抑えられるので、近年はダイエット食としても注目されているようです。

峯田さん なんといっても生麩は触感が命。その触感を決めるのはグルテンの強さ(弾力の強さ)です。ちょっとの温度やさじ加減で強弱が変わってくるので、まるで生き物に接しているようです。そうやって気温で変化するくらい繊細だから、うちは今でもほぼ手作業にこだわっているんです。 もしグルテンが強すぎたら、少し温度を上げてグルテンを「殺す(柔らかくする)」んだそう。生麩の仕上がりを左右するグルテンの出来を職人さんたちはいつも気にかけることになり、そのせいか、生麩だけでなく、うどんを食べるときにも「ついついコシがあるかをチェクしてしまう」と、笑って話してくださいました。

時代を捉えることで続いてきた110年の歴史

2020年で創業110年を迎えた「麩屋万商店」、長い歴史ある家業を継ぐことは、最初から心に決めていらっしゃったのでしょうか。

峯田さん 小さいころから親父が働く姿を見ていて、なんとなく俺もやるんだろうなと思っていました。細工を施すときに色粉を使うんで、親父の手はいつもいろんな色で染まっていて。一度その手を「汚い」と言ってしまったときにはすごく怒られました。それだけ真剣に、親父は生麩を作っているんだなと。

高校卒業後、色々なアルバイトを経験した後に実家で修業を始めた峯田さん。当初はほかのお麩屋さんで修業する予定だったものの、「やっぱり秘伝の技術を教えられない」と直前で断られるトラブルもあったそうです。お麩屋さんがたくさんあった時代は特に、その家独自の製法が肝だったのかもしれません。そんなトラブルはありつつも、家業の技術をしっかり継承してきた峯田さんに、今後の展望を伺いました。

峯田さん とにかく、若い人に広めていきたいと思っています。もともとうちは、自分たちが生き抜くために作り始めた生麩を、近所の方にお売りするところから商売を始めたんです。2代目の祖父の時代は細工物を主力商品とし、3代目の親父のときにはご家庭向けの需要に応えてスーパーへの卸売を主としてきました。

生麩はその起源から現代まで、時代に合わせて様々な愛され方をしてきた食材です。「だからこそ、今の時代に合わせた生麩の食べ方があるはず」と峯田さんは言います。

峯田さん 数年前に「たまかざり」という、カラフルな生麩まんじゅうを開発しました。生麩まんじゅう自体は、生麩が大好きだった明治天皇が「スイーツとして食べたい」とおっしゃったことで作られたのですが……当時から最近まで、生麩そのままのプレーンか、よもぎ味の2種類が主流だったんです。これでは今の時代の人にウケないと考え、カラフルで様々な味の生麩まんじゅうを作ることにしました。

カラフルな生麩まんじゅうは、定番のこしあん、つぶあんから、梅やラムネ、レモンやみかんなどの全9種類。見た目も可愛くて、贈答品としても喜ばれそうです。筆者も頂いたのですが、想像以上にもちもちで柔らかく、餡と非常にマッチしていました。

「うちの麩まんじゅうをインスタグラムに載せてくださる方もいて、とても嬉しいです。そうやってもっと生麩の魅力を知ってもらいたい」

そう語る峯田さんからは、生麩に対する愛情を感じました。お父様から継いだ熱意が、峯田さんの「生麩の魅力を伝えたい」という想いの原動力なのかもしれません。

大学生と開発した「トッポギ風アレンジ」

生麩といえば田楽や煮物など、シンプルな和食に合う食材のイメージ。けれど、おまんじゅうにしても美味しいように、生麩はどんな味付けにも合うそう。「若い人に広めたい」という想いから、生麩まんじゅうの「たまかざり」を開発された峯田さん、そのチャレンジは、まだまだ続きます。いま、新たに取り組まれているのが、大学生とのレシピ開発。なぜ、開発パートナーとして、大学生を選ばれたのでしょうか。

峯田さん 先ほども「生麩がどういったものかあまり知られていない」とお話していたように、まだまだ生麩の魅力に気づいていただけていないのが現状です。特に若い世代の方はなじみが薄く、どう使うのか分からないというお声もあります。だからこそ、大学生と一緒に「若い方が好む生麩レシピ」を開発出来たらと思ったんです。

そうして学生さんたちから提案してもらったレシピの1つが、「トッポギ」だったそう。今回は、峯田さんのチャレンジのひとつ、角麩のトッポギ風アレンジレシピをご紹介します。

「職人めし」レシピ

角麩のトッポギ風アレンジ

材料

材料名分量備考
角麩200g
ねぎ少々
<A>市販のトッポギソースで代用可
100ml
しょうゆ大さじ1/2
砂糖大さじ1/2
コチュジャン大さじ2

作り方

手順調理内容
1角麩を5mm幅に切り、軽く湯通しをする
2フライパンに<A>を入れ、火にかけて煮詰める
3②のタレに角麩を加え、絡める
4お皿に盛り、ねぎを散らす

今回の職人

職人データファイル:006

峯田和幸さん

麩屋万商店

愛知県岡崎市/生麩職人

100年の歴史を背負いながら、時代に合わせた生麩の魅力を伝え続けるチャレンジャー。

https://fuyaman.jp/

次回予告

日本の伝統文化に携わる職人に、その仕事に対する想いとこだわりのレシピをインタビューするメディア「職人めし」。次回は「矢を矧ぐ」、矢作(やはぎ)の地で弓矢店を営む小山泰平さん。

ぜひ次回の記事もお楽しみに!