「一生もの」を造る四代目石彫職人。その活力の原点は「職人カレー」

仕事やモノづくりへのこだわりと同じく、食にも独自のこだわりを持つ職人をフィーチャーする「職人めし」。

第14回目の今回は、愛知県岡崎市にある「石彫の戸松」の戸松和宏さんに、石彫の魅力と職人夫婦の家庭の味についてお話をお伺いしました。

石都岡崎に100年以上続く「石彫の戸松」の四代目・戸松政洋さん

日本三大石製品生産地の一つである愛知県岡崎市。その歴史は古く安土桃山時代まで遡り、岡崎城の整備に合わせて泉州岸和田より石工を招き、手厚く保護したのがその端緒とのこと。良質の花こう岩(御影石)が採れたこと、東海道の宿場町として多くの往来者があったこと、さらには参勤交代で行き来する大名たちが徳川家所縁の神社仏閣へ灯籠などをさかんに奉納したことから「石屋町」として発展しました。

「石彫の戸松」も石都岡崎で長年続く石工企業の一つ、「石彫」の名の通り、石像をはじめとした石材彫刻が専門。2020年現在で創業118年目、現代表の戸松政洋さんが四代目にあたります。

主に寺社向けの仏像、狛犬、なで牛、手水舎の龍などを製作。個人の方から奉納用の地蔵や狛犬、石珠、二宮金次郎像などの依頼が入ることもあるそうです。

戸松さん 家業が石彫ですし、修行に来ている若い衆が実家の隣にある寮で暮らしていたんですね。小さな頃から石に囲まれた生活をしていましたので、自然の成り行きで石彫の道に進むことを選んでいました。

「図工はそれほど得意では無かった」と話す戸松さんですが、芸大に進学して本格的に彫刻を学んだとのこと。

卒業後は家業に入って下積みから順番に研鑽を積まれたそうです。現在は「若い衆」たちに指導しながら日々石彫製品づくりを続けています。

オーダーメイドで「一生もの」を作る石彫の仕事。時には年単位の仕事になることも

石彫製品作りは「素材である石を調達」するところから始まります。採石場にて切り出された石材から素材に適したものを探すそうですが、天然の素材であるので適した石が採れるとは限りません。雨が続く時期は採石そのものができないこともあり、数ヶ月待たされることもあるそうです。

戸松さん 以前に2メートルを超える大型の座仏を製作したことがあるのですが、この時はお客様とともに中国まで行って、現地で一緒に原石を調達するところからはじめました。

素材として適した原石が見つかると、まずは大きくカットして形を作り、そこから徐々に細かな形へと細工を施していきます。

石像の製作の中では特に「顔」に気を使うといいます。

戸松さん 石の仏像は手を合わせてもらうものなので、露骨に笑っていてもダメだし、かといって怒っているような顔になってもいけないんです。お客様の要望も多い箇所ではありますが、自然に微笑んでいるような表情にするのが大切です。

素材の石によって硬さが違うため、様々な種類の道具を使い分けながら作業を進めていくそうです。仕事は分業制。大まかな仕事は若い衆にさせて、戸松さんが仕上げを担当されるそうです。

戸松さん 1ミリでもずれてしまうと表情が変わって見えてしまうんですよね。素材が石ですので、もし削りすぎてしまうとやりなおすことはできません。仕上げの作業は慎重で細かな作業が必要になります。集中力と目の良さが大事ですね。

「失敗したら失敗が一生残る、手を抜いたら手を抜いた部分が残る」と話す戸松さん。細かなところまで神経を行き届かせ、決して手を抜かないことが大切だと話してくれました。

また、仕事においては「お客様の話を良く聞くこと」が大切だと戸松さんは話します。石彫の仕事は全てオーダーメイドであり、ほぼ全てが一生ものの仕事。それ故にお客様の想いも大変に強く、自然とオーダーも細かくなるといいます。

とはいえ、石彫のプロではないお客様が、自分の描いているイメージを適切に伝えられるとは限りません。戸松さんは打ち合わせの中でスケッチを描いたり粘土で見本を作ったりすることで、製作に入る前にしっかりとイメージを共有するよう工夫をされています。

石工の中でも石彫の仕事は手作業が中心で細かな仕事が多いため、決して効率が良いものではないそうです。

情熱がないと務まらない仕事と話す戸松さん。

ある日弟子入りしたいと会社を訪れてきた若者に、「石彫の仕事は儲からないよ」と声をかけたこともあるとか。

しかし、「それでも、石彫って面白いんですよね」とも戸松さんは言います。

戸松さん 手作業であるがゆえ、一品ものであるが故の面白さがありますよね。まさにものづくりの原点の楽しさです。 時間が空いたときには、自分の好きなように作品も作れますしね。

事務所には戸松さんが手がけられた作品と共に、弟子が作ったという作品も展示されていましたが、弟子の作品について話す戸松さんの柔らかな笑顔がとても印象に残りました。

奥様も「職人」! 忙しい合間を縫って作られる「マッサマンカレー」

「あまり食にこだわりはない」と話す戸松さん。以前は会合などで外食の機会も多かったそうですが、最近はコロナ禍の影響もあって外食の機会が減り、夕食はほとんどご自宅でとられているそうです。

自宅での食事を準備するのはもっぱら奥様。しかし、奥様も自宅の1階にある店舗で美容師として働いており、食事の準備にかけられる時間は限られているそうです。

そんな戸松家の食卓によく上るのが「カレー」。「カレーなら仕事の合間で早く作れるから」と奥様は話されているそうです。

とはいえ、カレーは食材を刻んだり、炒めてから煮込んだりと思った以上に手間がかかるもの。これをお客様が少ない時間を縫って手際よく作られているとのことなので、このお話だけでも奥様は料理の腕前の素晴らしさがうかがえます。

戸松さん自身も、奥様の料理の様子に職人気質を感じることがあるそうです。

戸松さん たまに『○○やって』と言われることもあるんですが、モタモタしていると「そんなんでは仕事ができんわ」と言われてしまうんですよね。また、美容師をやっているせいか、食材を切るときに曲がっていたりすると気に入らないみたいです。

そう朗らかに話す戸松さんの様子から、同じ職人として奥様を尊重されているお気持ちが大変伝わってきました。辛いものはあまり得意ではないという戸松さんだが、奥様のカレーは好きとのこと。料理好きであろう奥様が作る「職人カレー」が、戸松さんの仕事の活力に繋がっています。

「職人めし」レシピ

仕事の活力 マッサマンカレー

材料

材料分量備考
鶏肉1枚
玉ねぎ2個
じゃがいも4~5個
ココナッツミルク200ml
500~800ml
マッサマンカレーペースト25g
砂糖大さじ1
小さじ1
ピーナッツ10~15粒
レモン1/4個

作り方

手順調理内容
1鶏肉は一口大、玉ねぎは薄切り、じゃがいもは一口大に切る
2鍋に油を熱し、鶏肉を炒める
3マッサマンカレーペーストを加え、香りが立つまでさらに炒める
4ココナッツミルク、水、玉ねぎ、じゃがいもを加えて煮込む
5じゃがいもに火が通ったら、砂糖と塩を加え調味する
6仕上げにレモン汁とピーナッツを加えて完成

今回の職人

職人データファイル:014

戸松政洋さん

石彫の戸松

愛知県岡崎市/石材彫刻

創業119年(2021年現在)の石工企業・四代目を受け継ぐ石彫職人。

http://www.1002s.com/

次回予告

日本の伝統文化に携わる職人に、その仕事に対する想いとこだわりのレシピをインタビューするメディア「職人めし」。次回の職人は書画を作品として完成させる、表具職人の大高一晃さん。

ぜひ次回の記事もお楽しみに!

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