仕事やモノづくりへのこだわりと同じく、食にも独自のこだわりを持つ職人をフィーチャーする「職人めし」。
第4回目にあたる今回、ご登場いただくのは愛知県岡崎市で「ムラセ銅器」を営む村瀬哲也さん。青銅器鋳物職人としてのお仕事と、それを支える息抜きと食についてお話をいただきました。
「ムラセ銅器」では仏教美術を中心とした寺院仏具や美術工芸品を作られています。歴史ある伝統技法を使いつつも「現在(いま)を生きる人々の心に響くような作品を作る」という挑戦的な姿勢で職人としての新しい境地を追い求めていらっしゃいます。
思い描いた通りではなかった、挑戦の道
今や二代目の看板を背負い、青銅器鋳物職人として「ムラセ銅器」を背負っている村瀬さん。幼い頃から「いずれ職人になる」という意識で過ごされていたのでしょうか。
村瀬さん 子どもの頃から父の仕事姿を見ていて、工房に出入りもしていたので、自分がいつか職人としての仕事をすることに違和感はありませんでした。その影響もあって芸術大学に入学したのですが、当時は欲が出ていたのでしょうね。東京で大きいことをしてやろうと思っていたんです。
社会に出てすぐに家業を継ぐ意思はなかったものの、やはり幼い頃から触れていた青銅器鋳物作りとの縁は切れなかったようです。では、どういったタイミングで「ムラセ銅器」を継ぎ、職人になることを決めたのでしょうか。
村瀬さん まずは修行として他の工房に就職したんです。実際にやっていることは家業と似ていました。当時はまだ、実家へ戻ることは考えていなかったのですが、ちょうどそのときに工房の人手が足りなくなり父から帰ってこいと言われたんです。それまでは思ってもみなかったのですが、そのとき改めて実家へ戻る選択もあるかもしれないと考えましたね。
実家に戻り3年ほど経った頃、先代であるお父様が他界されたそうです。その後はバタバタと忙しい日々が続きつつも、古くからいらっしゃる職人さんに助けてもらいながら、なんとかここまでやってこられたといいます。
近年では、時代の流れとともに寺院仏具の需要が減っており、美術工芸関係の依頼が増えているとのこと。観光スポットなどに設置する銅像やモニュメントの制作も行っています。今後の展望として、どのようなものを手掛けていきたいかをお伺いしたところ「もっと斬新なものを世にだしていきたい」と熱く語ってくださった村瀬さん。もともと宗教美術の道を志していたこともあり、様々な挑戦をしたいという想いがあるとのこと。また、生活に間接的に関わる仏具というものづくりのノウハウを活かした生活に寄り添ったものづくりを「ムラセ銅器」のサブブランドとして打ち出すアイデアも語ってくださいました。
古くからある伝統技術だからこそ、それを取り入れた新しいものづくりを実現したいと村瀬さんは言います。お仕事をされる中で、ポリシーのようなものはあるのでしょうか。
村瀬さん 常にオーダーでお作りするため、お客様側の視点を意識しています。使われる方がどのようなことを求めているのかは、人それぞれ違うものなんです。制作中もこまめにお客様と連絡を取り合って、細かい部分の温度感を確認しながら進めています。
作り手の独りよがりにならないよう、買い手側を意識することはとても重要とのこと。そういった多角的な視野を持つ村瀬さんだからこそ、新しい挑戦にも前向きなのかもしれません。
仕事の後の一杯、そしてそれを引き立てる逸品
青銅器鋳物を作る工房は大変暑く、力仕事も多いため、体力づくりが欠かせないといいます。ハードな仕事をこなした後は、美味しいビールをグイっと一杯。これが村瀬さんの息抜きであり、明日への活力だと嬉しそうにお話しいただきました。
村瀬さん 仕事はハードです。ただその分、終わった後のビールは格別です。スタミナを付けるためにもよくお肉を食べるのですが、特にトンテキが好きです。そして冷奴もあれば最高です。熱いトンテキと冷たい冷奴の組み合わせがたまりません。栄養も豊富だと聞くので、美味しくて健康になれるのがよいですね。どちらもビールにも合います。
体力と集中力が必要な青銅鋳物の世界、全身全霊で仕事に取り組む職人だからこそ美味しく感じられる仕事終わりの一杯を、幸せそうに味わう村瀬さんの満足そうな笑顔が目に浮かびます。
「職人めし」レシピ
ビールのお供、トンテキ&冷奴
材料
材料名 | 分量 | 備考 |
---|---|---|
豚ロース肉 | 2枚 | トンテキ |
玉ねぎ | 1/8個 | |
小麦粉 | 適量 | |
塩 | 少量 | |
こしょう | 少量 | |
サラダ油 | 大さじ1 | |
酒 | 大さじ1 | |
<A> | ||
めんつゆ | 大さじ2 | |
砂糖 | 大さじ1 | |
しょうゆ | 大さじ1 | |
おろししょうが | 少量 | |
おろしにんにく | 少量 | |
豆腐 | 1/4丁 | 冷奴 |
お好みの薬味 | 適量 |
作り方
手順 | 調理内容 |
---|---|
1 | 豚肉は冷蔵庫から取り出して、30分ほど常温に戻しておく |
2 | 豚肉の筋を切り、包丁の背でたたく |
3 | 豚肉に塩・こしょうで下味を付け、小麦粉を薄くまぶす |
4 | フライパンにサラダ油を熱し、中火で豚肉を焼く |
5 | 焼き色がついたらひっくり返し、酒を入れ、蓋をして蒸し焼きにする |
6 | 豚肉に火が通ったら、一度お皿に取り出し休ませておく |
7 | 同じフライパンに玉ねぎを入れ、炒める |
8 | 玉ねぎの色が透き通ったら、<A>を加え軽くとろみがつくまで煮詰める |
9 | フライパンに豚肉を戻し入れ、タレと絡める |
10 | 豚肉をカットしてお皿に盛り、タレを上からかけて完成 |
今回の職人
職人データファイル:004
村瀨哲也さん
ムラセ銅器
愛知県岡崎市/青銅器鋳物職人
伝統技術の素晴らしさを受け継ぎながら、時代を捉えて挑戦し続ける「ムラセ銅器」二代目。
次回予告
「職人めし」は職人さんから次の職人さんへ橋渡しをしてもらいながら進める連載。次回は思いをこめた印鑑づくりに精力を注ぐ彫師、神尾尚宏さん。
ぜひ次回の記事もお楽しみに!