新たな試みに挑み続けるお茶職人が伝授!お茶の香り高い炊き込みご飯

仕事やモノづくりへのこだわりと同じく、食にも独自のこだわりを持つ職人をフィーチャーする「職人めし」。第2回の今回は、第1回にご登場いただいた柴田酒造の伊藤静香さんからご紹介いただきました。愛知県岡崎市にある茶園「宮ザキ園」の6代目、梅村篤志さんです。

2020年でちょうど創業200年を迎える老舗茶園で、次々と新しい試みをされている当主がいらっしゃるらしい…そう聞きつけ、岡崎市郊外、山々に挟まれた宮崎地区まで足を運びました。

ドキドキしながら木の引き戸を開けると、にこやかに出迎えてくださった梅村篤志さん。どこか飄々とされたこの方が、今回の「職人」です。

家業への危機感から本気になったお茶の仕事

江戸時代から200年もの間、代々続く家業をお父様から継ぐことへの抵抗やプレッシャーはなかったのでしょうか。まずは、そこから伺うことにしました。

代々の家業であることから、梅村さんにとってお茶は「そこにあることがあたりまえ」のものでした。高校卒業後には、半ば強制的に茶業試験場というところに入れられたそう。特にやりたいこともなく、他の道も見えてはいなかったことから、ピュアに「まずはここからやるしかないか」と、取り組んでいたとおっしゃいます。

当初は乗り気ではない部分もあった梅村さん。そこから次々と新たな取り組みをされるまでに本気になったのには、なにかきっかけがあったのでしょうか。

梅村さん 元々うちは産地問屋っていって、自分たちでお茶の栽培・加工・卸売販売をやっていたんです。ただ最近はペットボトルのお茶を買う人が増えて、そこそこの品質の茶葉を安く大量に生産することが求められるようになって。そうすると、平地で機械での生産がしやすい静岡や鹿児島に比べて、うちのある宮崎地区は生産力に欠けちゃう。高齢化も相まって、次第に宮崎地区の茶園事業者は減ってきて、このままやったら危ないなと思ったんです。

ただ安く規格品をつくるだけなら、大量生産品の原料を作っているのと同じじゃないか。そんな危機感をもっていた矢先の2016年、岡崎市と額田町が合併することに。利益の大部分を占めていた香典返し向け卸売も価格競争の波に飲み込まれつつあり、先行きは不透明。そんな状況もあり、思い切って「産地問屋」からの脱却に踏み切ったそう。事業転換という大きな判断には、やはり、周囲の反対も強かったといいます。

梅村さん 親父には反対されました。だけど、スピードの速い現代でこのままじゃダメだと思って、勝手にやってたんです。それに自分たちで直接販売もすれば、加工や販売業者さんの状況に左右されることなくお茶を販売できます。

「宮ザキ園のお茶」に付加価値を

これまでの「栽培」「加工」に加え、「直接販売」も展開し始めた宮ザキ園さん。そのチャレンジの根底には、自身がつくるお茶への自信と愛情が溢れていると、お話してくださる梅村さんの力強い眼差しからひしひしと感じられました。

梅村さん 価格競争にも巻き込まれたくないし、僕としてはお茶の個性を大事にしたい。そこそこの品質なんかじゃなくて「オリジナリティのある良いもの」を作っていきたいんです。そうなると「宮ザキ園のお茶」に魅力を付けていかなきゃいけないので、いろいろ新しい挑戦をしています。

その挑戦の1つが、取材をさせていただいた「茶寮一匙(さりょうひとさじ)」。お茶を知ってもらうきっかけづくりとして、茶倉庫をリノベーションしてつくられたカフェです。「落ち着く和の雰囲気も、お茶の魅力を引き出す工夫」と梅村さん。お茶を好きになって欲しい、お茶の魅力を伝えたいという、梅村さんの強い想いがお店の雰囲気からも伝わってきます。

さらに、こんな演出も、梅村さんのお茶への想いが背景に見えてきます。

梅村さん カフェのメニューに写真を載せていなくて、このお点前セットの説明も極力省いているので、お客様はうちの店員に質問してくれるんです。そこでお茶の知識を説明したら、より深くお茶の魅力を知ってもらえるかもしれないじゃないですか。そうしたら、ちょっと質の高い個性的なお茶を選ぶ理由ができます。

お茶の味というのは、収穫の年ごとに違いがあり、個性がでるものだと教えてくださった梅村さん。ワインと同じように、自然の恵みであるお茶も、その年ごとに味に違いが出て当たり前だそう。だから、ワイン文化のように、毎年の味の違いを楽しむ新たなお茶文化をつくっていきたいとのこと。

アーモンドやバニラ栽培にもチャレンジ、梅村さんが目指す宮崎地区の未来

お茶への想いを語ってくださった梅村さん、実は、お茶だけでなく、他の農産物でも新たな取り組みを手掛けていらっしゃいました。そんな梅村さんが思い描いているのは「宮崎地区の未来」でした。

梅村さん ただお茶だけにこだわっているわけじゃなくて、いろいろな農産物をこの宮崎地区に合わせて作っていきたいんです。

そこで着目したのがアーモンドやバニラの栽培。バニラはお茶と同じく香りが重要となるため、コストは高いものの挑戦しがいがあるとのこと。またアーモンドはミルクや油も作ることができるため、期待を寄せているといいます。

梅村さん 僕がやっていきたいのは、まず地産地消、自分たちで食糧をつくってそれを食べて生きることです。それは日本の食糧事情に危機感を持っているからで、極論食糧難になっても生きていけるようにしたいんです。

ゆくゆくは宮崎地区を、「若い人が住みやすくて起業しやすいような街」にしていきたいと語る梅村さん。その根本にあるのは「この地から土や水をお借りしている」という自然に対する感謝や敬意です。

「この地も茶園も途絶えさせたくないです。だからこそもっと宮崎地区に根付く産業を生んでいくことが目標です」

そう話す表情は優しく、梅村さんの思いやりや責任感を垣間見ることができた気がします。

ほっこり!茶園に伝わる「ほうじ茶と栗の炊き込みご飯」

今回梅村さんが教えてくださったのは「ほうじ茶と栗の炊き込みご飯」。普段から当たり前のように召し上がっているそうで、記者が食いついたことに驚いていらっしゃいました。ほうじ茶の香りがふわっとするごはん、とてもおいしそうです。

「秋は栗を入れるんだけど、普段はほんとにお茶だけでも食べています。」

春はたけのこなど、季節に合わせて旬の食材を入れてもおいしいかもしれません。そして、この炊き込みご飯、ほうじ茶はもちろんのこと他のお茶をかけてお茶漬けにしてもおいしいそうです。例えば緑茶でお茶漬けにすると、香りはほうじ茶、味は緑茶が強く出て、一味ちがった美味しさに。ぜひ、お好みのお茶の組み合わせを楽しんでみてください。

「職人めし」レシピ

ほうじ茶と栗の炊き込みご飯

材料

材料名分量備考
2合
もち米1合
甘栗お好みの量
ほうじ茶パック1個
少々

作り方

手順調理内容
1米ともち米を合わせて研ぐ
2炊飯器に①と分量の水、甘栗、お茶パックを入れる
3炊飯器のスイッチを入れる
4炊けたらお茶碗に盛り、塩を少々振る

今回の職人

職人データファイル:002

梅村篤志さん

宮ザキ園

愛知県岡崎市/お茶職人

自社の事業改革だけにとどまらず、地域の未来を見据えたチャレンジを続ける老舗茶園の6代目。

https://miyazakien.com/

次回予告

日本の伝統文化に携わる職人に、その仕事に対する想いとこだわりのレシピをインタビューするメディア「職人めし」。次回の職人は、金沢市で伝統的な酢づくりをおこなう今川英雄さん。

ぜひ次回の記事もお楽しみに!