雛人形に魂を吹き込む職人の技。こだわりのめしも「雛」にちなんだあの料理

仕事やモノづくりへのこだわりと同じく、食にも独自のこだわりを持つ職人をフィーチャーする「職人めし」。

第17回は、愛知県岡崎市に工房を構える『粟生人形』の二代目職人、粟生”藤真”穂洲さんです。雛人形作りの仕事内容や、職人としての醍醐味を語っていただきました。

父親の背中を追って人形職人に

粟生人形は、先代が昭和37年に創業した日本人形の工房です。工房のある岡崎市は徳川家康の生誕地として知られ、東海道の宿場街としても栄えた城下町。古き良き日本の伝統文化が今も息づいています。

藤真さん 物心つく前から、日本人形を作る父の姿を見てきました。父は、数々のコンクールでの受賞歴を重ねる人形職人。ですから父の背中を追い、人形職人の道を目指すようになったのは、ごく自然のことだったと思います。

ハリのある声で話す藤真さん。職人ならではの旺盛な探究心が、言葉のはしばしから感じられます。しかし高校卒業後、藤真さんはいったん親元を離れる道を選びます。

藤真さん 創業当時、父はいろいろな節句人形を作っていましたが時代に合わせ次第に五月人形を専門とするようになりました。ですから「じゃあ、私は雛人形をやろう」と思ったんです。それで、雛人形職人へ弟子入りをしました。

後で知ったことですが、これは非常に幸運なことでした。というのも、家族経営の人形職人は、親族以外を迎え入れることはほとんどありません。技術流出の恐れがありますからね。

異例の弟子入りは、藤真さんの人柄を見込んでのことだったのかもしれません。ともあれ藤真さんは、この師匠のもとで雛人形作りのすべてを叩き込まれます。そしてその経験は、後に藤真さんの大きな財産となるのでした。

手作りにこだわる「雛人形の専門工房」

修業を終え、藤真さんが粟生人形に戻ってきたのは平成13年のこと。本店工房と同じ藤川宿内に雛人形の専門工房を開き、独自の雛人形の世界を追求し始めます。そして先代の背中を追うように、日本人形協会会長賞(平成25年)など数々の賞を受賞するようになります。

藤真さん うちの工房は、職人による手作りにこだわっています。ですから(経営的には)苦しくなりますが、大量生産もやめています。大量生産では、お客様の顔が見えない。私は、私と出会っていただいたお客様のために、雛人形を作りたいのです。

「見えない部分でも手を抜かない。それが職人の仕事です」と、胸を張る藤真さん。工房で、実際に雛人形に触れる機会がありました。自然で柔らかな姿、立体感、生地の質……。どれも量産品では生み出せない、豊かな個性が感じられました。

私は「雛人形作りのプロデューサー」

藤真さん 人形作りの多くは分業制です。私は雛人形の着付師ですが、屏風から台、金具、小道具、フルサイズの7段飾りでは30人以上の職人が関わります。そこで大切なのが、それぞれの職人の仕事をまとめ、生かすプロデューサーの役割です。着付師がお顔を選び、雛人形を完成させる最終工程ですので、全体に観立てる。ですから、出来上がった雛飾りに一体感が生まれるんです。

おひなさまは、お顔が命と言いますが、藤真さんによれば頭職人さんの作った顔を生かすも殺すも、衣装次第なのだとか。

藤真さん 例えば、人形の形を生かしたいときは、ラインの色を濃くする。逆に人形の形を生かしたいときは、ラインを薄くします。全体のまとまりを考慮しつつ、こうやって職人さんの個性も引き出すことを心掛けています。

とはいえ、時には自身の「職人魂」に火がつくこともしばしば。そんな時は「8、9割の部分を自分で作ることもありますね」と、笑います。

ところで、雛人形のシーズンは毎年、年明けから3月頃までです。それ以外の時期は、何をされているのでしょうか?

藤真さん その年の制作が終わったら、すぐに展示会や店頭などで同業者やお客様の声をリサーチします。視野を広げることが、作品の幅の広がりにつながります。そして来年の新作の構想を練り始め、デザインや材料選びにかかります。ですから一年中、雛人形のことを考えていますね。

日本文化に寄り添う雛人形を

藤真さん ひな祭りは、女性にとって人生で最初の大きなお祝いごとです。毎年、春に雛人形を親子で飾る。その楽しさと『私は愛されている』という気持ちは人生の宝物になります。そして、その思いは、その子が母になった時、次世代に受け継がれます。

人生の思い出に寄り添う節句人形だからこそ、大切に扱われる「良い人形」であるべきなのです。

ものを大切にする、慎ましさ、おもてなし。藤真さんのお話を聞いていると、節句人形には日本文化の精神が凝縮されていると感じます。

そんな藤真さんが、いま目指しているのは「節句人形を通した、日本文化の世界発信」です。

藤真さん 今後、日本の国際化はますます進むでしょう。私は、節句人形を活用して、日本の文化を世界に紹介したいと思っています。例えば、3月には雛人形を飾り、茶菓子をゆっくりと楽しむ。そんな日本の季節感を生かしたおもてなしが、海外の方には新鮮ではないでしょうか。実際に、いま和菓子店とのコラボレーションを計画しているところです。節句人形に新たな可能性を見出すきっかけになればいいと思っています。

節句人形は単なる「季節の飾り物」ではなく、日本人の日常に寄り添う文化である--。藤真さんの言葉には、人形職人ならではの強い思いが込められていました。

人形に命を吹き込む職人めしは「ちらし寿司」と「伊賀饅頭」

雛人形の一つひとつに魂を込める藤真さんの仕事。普段のお昼は、1時間じっくり休憩してお弁当を食べるそうです。

そんな藤真さんの、とっておきのこだわりめしを2つ教えていただきました。

一つは、「ちらし寿司」。特に、おひな様の時期に食べるちらし寿司は「雛ちらし」とも呼ばれます。酢飯にエビや干しシイタケ、レンコンなどがトッピングされて色鮮やか! ご家族によれば「明治時代のおばあちゃんは、桶にご飯を1粒も付けず、キレイに作りましたよ」とのことです。

もう一つは、ひな祭りの時期にだけ食べる「伊賀饅頭」。あんを米粉でくるみ、ピンクや緑などカラフルに色付けされたもち米をのせ、蒸して作ります。西三河地方独特の郷土料理で、藤真さんは地元の和菓子店で買って食べるそうです。

どちらも、ひな祭りにぴったりですね。

「職人めし」レシピ

「雛ちらし」

材料

材料分量備考
320g4人分
干し椎茸4個
人参50g
蓮根50g
ほうれん草1/2束
むき海老150g
2個
<A>酢飯合わせ酢
40g
砂糖25g
5g

<B>含め煮煮汁
干し椎茸の戻し汁250ml
砂糖大さじ2
しょうゆ大さじ1と1/2
みりん大さじ1
<C>錦糸卵調味料
砂糖大さじ1
ひとつまみ
<D>海老甘酢
砂糖大さじ1
ふたつまみ
大さじ2

作り方

手順調理内容
1米は洗って炊飯器にセットし、いつもよりやや少なめの水加減で炊く
2ご飯が炊けたら寿司桶もしくはボウルに移し、<A>の合わせ酢を回しかける
32をうちわであおぎながら、切るように混ぜ合わせる
4干し椎茸は分量の水で戻し、薄切りにする
5人参は皮をむき、拍子木切りにする
6蓮根はいちょう切りにし、酢水にさらす
7鍋に、<B>と椎茸、人参、蓮根を入れ、煮汁が少なくなるまで煮る
8ほうれん草は塩茹でし、分量外のしょうゆを少々振りかけ、和える
9ボウルに卵と<C>の調味料を加え、よく溶きほぐす
10フライパンに油を熱し、⑨を半量流し入れ、薄焼き卵を作る
11残りの半量も同様に焼き、粗熱が取れたら細切りにする
12⑦が冷めたら煮汁を切って、酢飯と混ぜ合わせる
13お皿に⑫を盛り、錦糸卵、海老、ほうれん草をお好みで散らす

今回の職人

職人データファイル:017

粟生”藤真”穂洲さん

粟生人形

愛知県岡崎市/人形職人

伝統工芸技術者愛知県知事賞他数々の受賞に輝く人形師業界期待のホープ

http://www.wa.commufa.jp/~hinadoll/

次回予告

日本の伝統文化に携わる職人に、その仕事に対する想いとこだわりのレシピをインタビューするメディア「職人めし」。次回の「職人」は伝統を生かしつつ、和菓子の新たな魅力を探す小野悟さん。

ぜひ次回の記事もお楽しみに!

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