情熱あふれる若き現代の名工。その力の源は王道パワーめし

仕事やモノづくりへのこだわりと同じく、食にも独自のこだわりを持つ職人をフィーチャーする「職人めし」。

第16回目の今回は、第8回目にご登場いただいた石嶽石工業の楠名康弘さんからのご紹介。三重県名張市で100年以上続く谷本石材の五代目・谷本雅一さんに、若き石工職人が抱く情熱と、その原動力となっているパワーめしについてお話をお伺いしました。

38歳という異例の若さで現代の名工に選ばれた、石工業界の若きエース

「姉二人の後の末っ子長男として生まれましたので、逃げる余地はありませんでした」と話すのは、100年以上続く谷本石材の五代目である谷本雅一さん。38歳という異例の若さで現代の名工に選ばれた、石工業界の若きエースです。

周りから「継ぐんだぞ」と言われながら育った谷本さんですが、その奥には少なからぬ反発心があったそうです。

谷本さん 反発はずっとありましたよ。石屋を継ぐと決まっていたので「じゃあ、勉強しなくても良いじゃん」と抵抗はしていました。良い高校や大学に行っても行き着くところは一緒だよなと思っていたんです。ただ、今思えばもうちょっとやっておけば良かったなと思いますけどね。

そう朗らかに話す谷本さんですが、作ること自体は小さな頃から大好きで、中学時代には美術部に入っていたそうです。

谷本さん 美術科のある高校や美術大学に進学してみたい気持ちもあったんですが、芸術家になられては困ると親が許してくれませんでした。

学校を卒業後は岡崎の石材店で修行を積み、石工職人としての道を歩み始めます。その後、めきめきと腕を磨き、1997年には技能五輪全国大会で優勝したのを皮切りに、石工の技能を競う全国大会で次々と優勝・最優秀賞を獲得します。

それらの成果が認められ、2014年には厚生労働大臣表彰である「現代の名工(卓越技能者)」として表彰を受けます。38歳という石工業界では最年少で現代の名工に選ばれたときのことを谷本さんはこう話します。

谷本さん 目標を作ってくれた大先輩方がいたので、その期待に応えようと頑張ってきた結果だと思います。同じ業界の方からも様々な声がありましたが、「型にはまるのはどうなんだ。他の業界を見れば若くして現代の名工に選ばれている人もいる。もし足らないものがあるなら埋めればいいじゃないか」と思い、日々下見ました。そういうタイミングの中でたまたま自分がそこにいたということ。自分としては特別なことをやったというつもりは無く、目の前の目標を一つずつクリアしていったらそこまで行けたのでは無いかと思います。

大先輩から「お前しか出来ない」と与えられた目標は「天命」として受け止めているという谷本さん。多くの人が「いやいや、私には無理です」と謙遜して言ってしまうところも「はい、頑張ります」と素直に聞いて、取り組まれてきたそうです。

この旺盛なチャレンジ精神こそが、谷本さんが高い実績と評価を積み上げてきた原動力となっているのだと感じました。

賞を取ったものの責任は、次世代の「目標」になること

そんな谷本さんのチャレンジは、現代の名工に選ばれてからも留まることを知りません。現代の名工の表彰を受けた後、熟練技能者の競技大会である「技能グランプリ」に出場したのです。

谷本さん 業界の諸先輩方からは「現代の名工は頂点なんだから出る必要は無い。もし結果が出なかったらどうするんだ?」と止められました。ただ、自分はそうは思わなかった。「取り残し」をそのままにしておきたくなかったし、出場資格がある以上はチャレンジしたかったんです。結果が良かったから良かったんですけど、もし結果が出てなかったらものすごく怒られていたでしょう。ただ、もし取れていなかったら今でも出ていたとは思います。

石工業界の全ての競技会で優勝してきた谷本さんは「やっぱり2位ではダメなんです」と言います。スポットライトを浴びて注目されるのは1位のみであり、「歴代」と言われるのも優勝者のみ。だからこそ、それを目指して挑戦する価値があると話してくれました。

谷本さん 金メダリストの名前は言えても銀メダリストの名前は出てこない。富士山が日本一として日本で二番目に高い山は?と言われてもなかなか応えられませんよね。それが一番になることの重みであり、先輩方が大会に出て金メダルを取っていくのを目の当たりにして、その重みをまざまざと感じました。

「技術は磨いているからこそ面白いですし、強いライバルがいるからこそ、高い目標にチャレンジするからこそワクワクする」と話す谷本さん。最初は継がされたという思いもあったそうですが、今では「どうせやるなら楽しい方が良いよね」とすっかり切り替わっているそうです。良い結果を出して、認められていった方が楽しい世界が見られると谷本さんは話します。

そんな谷本さんが現在手がけられているのが、文化財の修復や芸術作品の製作。これらの新しいチャレンジに積極的に取り組む背景には、これからの石工業界に対する思いがありました。

谷本さん 昔出来なかったことも諦めず、習わなかったけれど一歩ずつ進めさせてもらっています。また「手の技術」の文化の伝承も担っていかなければいけないなと。「ものづくり」の人たちがもっとクローズアップされて、もう少し良い環境で仕事が請けられるようにならないかなと思っています。

令和元年に黄綬褒章を受章した谷本さんは「前例というのは誰かが崩すものだと思っている」と話します。

谷本さん 自分が前例になれば、年齢に左右されず実力を磨いてもっと早く手に入る方法があるということを見せられる。そうすれば、それを目標に職人としてもっと頑張れる若い人が出てくると思います。賞を取った人間はそういう目標にならないといけないし、人生を賭けて歩みを見せていかなければいけない責任があると思います。

長時間にわたるインタビューの中で職人としての熱い想いを語ってくれた谷本さん。「作品の作り手として評価されるような、どこかでポンと飛び越える石工職人を。そのためにこれからもチャレンジを続ける」と話されていました。新しい石工職人像を見せたいと願う谷本さんの情熱は、きっと次世代に伝わっていくことでしょう。

現代の名工のあふれる情熱を支えるパワーめし「豚キムチ炒め」

名実ともに石工業界の若きエースとして積極的なチャレンジを続ける谷本さん。その情熱の源となるのは「肉」だと話してくれました。

谷本さん やっぱり肉が好きですね。魚が出てくるとちょっとテンションが下がってしまいます。肉を食べないと元気が出ないです。

そう話す谷本家の食卓では、週のほとんどで肉系の献立が並ぶとのこと。肉好きというのは業界の先輩方にも知られているようで、「主食は肉です」と笑いながら話されていたのが印象的でした。

その中で、谷本さんが特に元気を出したいときに食べたくなるのが「豚キムチ炒め」。ご飯が進む味に仕立てられていて、奥様に定期的にリクエストして作ってもらっているそうです。

また、肉とともに好きだというのがスイーツ。特に生クリームを使った洋菓子系のスイーツが好きとのことで、夕食の時には食事とともにデザートとしてケーキやシュークリーム、アイスクリームなどを召し上がるとか。

三人いらっしゃるお子さんたちも肉が大好きとのこと。谷本さんのDNAはしっかりと受け継がれているようです。

情熱溢れる職人の原動力は、ガツンとパンチのある豚キムチ炒めと甘い癒やしのスイーツでした。

「職人めし」レシピ

パワーめし 豚キムチ炒め

材料

材料分量備考
豚バラスライス肉100g
キムチ50g
小さじ1
しょうゆ小さじ1/2
少量
こしょう少量

作り方

手順調理内容
1豚肉に、酒、塩、こしょうで下味をつける
2フライパンに油を熱し、豚肉を炒める
3豚肉の色が変わったら、キムチを加え軽く炒める
4最後にしょうゆを回し入れ、全体を混ぜ合わせたら完成

今回の職人

職人データファイル:016

谷本雅一さん

株式会社谷本石材

三重県名張市/石工職人

38歳の若さで「現代の名工」に選出され、令和元年に黄綬褒章を受章する石工業界の若きエース

https://tanimotosekizai.co.jp/

次回予告

日本の伝統文化に携わる職人に、その仕事に対する想いとこだわりのレシピをインタビューするメディア「職人めし」。次回は岡崎の城下町でひな人形づくりに励む粟生”藤真”穂洲さん。

ぜひ次回の記事もお楽しみに!